2015年5月18日
動物風景-14 荻野彰久 荻野鐵人
「ワタシ、ほっとしたわ」スピッツ犬がぼくに言って、嬉しそうに笑ったので
「一晩、生き延びてみたって同じことだよ」と、ぼくも笑った。
風が死ぬと割れた雲の間から明るい月が顔を見せた。スピッツ嬢の方からは眼前に家の中が見え、ぼくの方からは向いの屋根を越えて広野が展(ひら)けていた。静かな月夜だった。
「コリーさん、コリーさん、アンタ、悲しくない?」突然スピッツ嬢の檻から、声がした。ぼくは答えず黙っていた。
「コリーさん、もうお休みになったの?」と、スピッツ嬢が、又言葉をかけた。
「うん、ぼくはもう寝たから、返事はできないね」
「何、言っているの、お返事出来るじゃないの、意地悪ネエ」と、スピッツ嬢は言って笑った。
「もう寝ろよ、今夜は雪も降って、冷えているから、いつまでも起きていると風邪を引くぞ」とぼくが起きずに云うと、鋭いが優しい声で、ははははとスピッツ嬢は笑い。
「風邪を引くなんて、何言っているの、わたしたちは夜が明けたら、殺されてしまうのよ、バカね」とスピッツ嬢。