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2016年2月10日

孤 独(3) 丸山 薫

 客船でない船に乗組んでいるのは、云うまでもなく船員だけである。それらの海の男たちは、日課によって、或は天候の工合によって、または港への出入(でいり)によって動く、任務と仕事をもっていた。周囲は多忙に、しかも海上という特別な規律と風習と雰囲気の中で廻転していた。その廻転の外にいるのは、私だけであつた。私の孤独感はその為であったのだ。もちろん、私は私なりの仕事をもってはいた。だがそれが直接には、船の中の動きとなんの関係があったと云えようか!
 割り込んだ陸者(おかもの)だという独りぽっちの感じは、三度の食事を士官たちと共にしているときも、水夫(セーラー)や火夫たちと談笑しているときも、私の心の底を離れなかった。私は船内のどこにいても、極力、彼らの仕事や気分の邪魔にならぬように心掛けた。そうした遠慮がまた私に、その独りぽっちの輪の内側にもう一つ小さな孤独の輪をつくらせ、その中に自分をとじこめさせた。しかもその小さな輪の中で、私は、私の愛する海を抱きつづけ、好きな船を撫でさすり、航海というものの味わいを、しつかりと噛みしめていたのである。



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