共立荻野病院コラム詳細
TOP > 共立荻野病院コラム一覧 > こんなはずではなかったが…(3) 津村秀夫
  • 診療科目一覧
  • 内科
  • 胃腸科
  • リウマチ・膠原病科
  • アレルギー科
  • リハビリテーション科
  • 診療時間
  • 月〜金 午前9:00〜午後12:00
    午後3:00〜午後6:00
    土・日・祝日・年末年始・夏季
    (3日間)
  • 月〜土 午前9:00〜午後4:00
    日曜・年末年始
  • 月〜金 午前9:00〜午後5:00
    土・日・祝日・年末年始・夏季
    (3日間)
  • 院内のご案内
  • 医師紹介
  • 共立荻野病院デイケアセンターフラミンゴ
  • 住宅型有料老人ホーム プメハナ

2016年7月7日

こんなはずではなかったが…(3) 津村秀夫

 名取君は十一月二十三日に他界したが、退院して約一カ月。親しく奥さんの看護を受けられたが、むろん自分の死を覚悟していたらしいが、遺言めいたことは一言もいわなかった。家族に与えるショックを考えたのだろう。奥さんもわざと、それにふれなかった。
 ただ、ある時、彼のベッドのそばに奥さんしかいない時、
 「こんなはずではなかったね。」
と、つぶやいたそうだ。
 奥さんの玖子さんはわざと横向きのまま、
 「本当にね。」
と、低く小さい声で、押し出すように、やっと答えた。
 おたがいの心の中は知りつくしている夫婦だから、それだけでもう充分だったと玖子さんは書いている。(遺稿写真集「人間・動物・文様」、六三年十一月慶友社発行の「あとがき」)
 私は、この故人の言葉、「こんなはずではなかったね」にひどく心を動かされた。
 人生のことはすべてこれであろう。
 名取洋之助君のように自分の死を予知しなくても、生きていても人生五十年にもなれば、「こんなはずではなかったが」と思うことが多い。が、ガンという風な宣告に直面した時の、人間の狼狽ほど大きなものはあるまい。



共立荻野病院コラム一覧へ戻る