2017年7月4日
聖 地 深尾須磨子
これはただひとり
はるばる日本からたどりつきました
聖地もうでの女巡礼です
なに聖地もうで？
いかにもこ奇特なことだが、
それこそはくたびれもうけ
金がいっさいのいまの世には
聖地もうでなど
なんにもならん なんにもならん
とおっしゃるのはあなたの立場
私の立場はちがいます
金がいっさいのいまの世の中であればこそ
金がいっさいでないことのあかしを
この眼で心でたしかめたいのです
といわれるからには
ひと通りの案内だけはせずばなるまい
さあここが聖キリスト聖誕教会
そこにあるのがイエスの生れた馬小屋だ
なんにもならんなんにもならん
痩せがれたオリーブの丘の
これが聖キリスト昇天教会
そしてあれがゲッセマネの園
有名なイエスの最後のいのり
なんにもならん なんにもならん
などとおっしゃらずに、
このオリーブのしげみのかげに
しばらく私をひとりにしてください
「ああイエス様その夜を最後に
ここでおいのりになったあなたの苦悩が
そのまま私の胸に伝わってまいります
あなたはあなたの命をかけて
あなたの小羊たちのために
おいのりになりました」
それがなにになったというのだ
なんにもならんなんにもならん
現にその小羊たちが
聖地そのものをさえ二つに引き裂き
血みどろになっていがみ合っているのだ
イスラエルヨルダン
ヨルダンイスラエル
この不協和音は一つにならないのだ
パレスチナはイスラエルのもの
シオンの娘もイスラエルにさらわれた
聖地もとくにここエルサレムあたりは
ハイエナやハゲタカのすむ岩山つづき
ヨルダンの流れもかれがれだ
そういえば水がすくないようですね
私はせめてあの流れに
この身と心がきよめたいと
ねがいつづけていましたのに
洗礼かね？
なんにもならんなんにもならん
あの全流域に発電所というような
ことにでもなれば話は別だが
それもヨルダンとイスラエルが
手をにぎらねばどうにもならん
魚もすまない死海にしてもだ
死海開発事業でもおこし
多すぎる塩分を分析して
その構成要素を調べ
一かく千金に役立てる
これは素晴しい現実的構想だ
とにかくこの地}帯は
光と飢えのきょう宴だ
光と飢え飢えと光それだけだ
ここではだれもが
そのどちらかを選ばねばならないのだ
それがロオマの搾取下にあったあの頃の
その苦しさはどんなだったでしょう
その現実に抵抗なされたイエス様
抵抗に生き抵抗に死なれたイエス様
そのイエスを裁いたロオマの司法官の
ここがピラトのやかただ
そしてこれが
ピラトの手をきよめた手水ばち
きよめてもピラトの手は
きよめられませんでしたね
中にわに満開のきょうちくとうの赤いこと
血のいろですね
さあいよいよゴルゴタの丘
終点は聖墳墓教会だ
ゆっくりひと足ひと足とゆこう
ああ炎天下の岩地の丘
「あなたがおころびになったところで
私もころびましたイエス様
あなたがおよろめきになった
聖母のお家の前で
私もよろめきましたイエス様
あなたの十字架と私の十字架と
どちらが重いでしょうイエス様」
要するに愚問愚答だ
現実的にはなんにもならん
それよりも実用的な
ベツレヘムの星を買いなさい
えベツレヘムの星ですって？
そうだこれが本物の星よりも
ずっと美しいベツレヘムみやげの
貝殻細工の星だ
貝殻細工の星？
貝殻細工だよ
ポルトガルから輸入の貝殻を細工した
これがベツレヘムみやげの星だ
ずいぶんきれいに出来てますね
そうともそうとも
満天のベツレヘムの星は
なんにもならんなんにもならん
貝殻細工の星ならえりどめにでもなる
さあ買いなさい買いなさい
おさいせんのつもりで
