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2019年8月2日

詩と釣りと(3) 伊藤桂一

 その理由の一つは、食うものがなくて一日考え込んでいたりしたあのころ、魚を釣りさえすればそれだけでも生きられたし、また河川や海に、魚はあふれていたのである。それをやらずしてむなしく飢えていたことが残念だったのだ。(もっとも当時は釣竿等を買う金銭的余裕さえなかったのである。) もう一つの理由は、釣りについて、これほど面白い遊びを、当時あれだけヒマだらけの生活でありながら、なぜふんだんに楽しまなかったか、という後悔であった。そうしてそのときの仇をとるようなつもりで、その后の余暇の一切を釣りに費し、その無理がたたって、遂に倒れてしまうことになったのである。
 相当思いきって身体をこわしたあと、現在で療養三年、ほとんど復調しているが、その間豊橋へは一度も行ったことがない。通りすがりの瞥見だけである。私は戦后初の参院選挙のとき、運動員として北設を歩き、稲武まで山中を越えたことがある。あのとき眼にした渓流が寒狭川で、アユの名場所であることを知ったのも、ついこのごろなのである。



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