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2019年9月11日

アルベール・カミユ 「結婚」 柏倉康夫訳 ティパサでの結婚(6)

ティパサでの結婚(6)
 本当に貧しいものは、神話を必要とする人たちだ。ここでは神々が床をしつらえ、あるいは一日の運行の目印の役をはたす。わたしは書き、そして語る。「これは赤、青、緑。これは海、山、花」。わたしが鼻の下で乳香の玉をつぶすのが好きだからといって、デイオニユーソス(4)について話す必要があるだろうか? 後にわたしが心置きなく思いを馳せることになる古の讃歌、「地上に生きる者にして、これらの事を見し者に幸あれ」は、デメテル(5)のものなのだろうか? 見ること、この地上にあって見ること、この教訓を忘れることがありえようか? エレウシスの秘儀(6)では、凝視することで十分だった。ここでも、世界に十分近づくことなどあり得ないのは、わたしも分かっている。裸になって、大地の精気を全身にまとったまま海に飛び込み、それを海中で洗い流し、太古の昔から大地と海が唇と唇を重ねながらする抱擁を、わが肌の上に出現させなければならない。水に入ると、冷たさを感じる、冷たく不透明な糯(もち)がせり上がってくる。次いで潜る、耳が鳴り、鼻から水が流れ、口が苦い。――泳ぐ、海面から出した腕は水にぬれて太陽に金色に耀く、すべての筋肉をねじって、それをまた打ち下ろす.身体の上を流れる水、脚で波をはげしく掴む――すると、水平線が没する。岸にあがり、砂の上に倒れこむ。世界に身をゆだねる。自分の肉と骨の重さを取りもどし、太陽に酔い痴れ、両腕をときどき眺めやる。すると水が滑り落ちて乾いて斑模様になった肌を、金色の産毛と塩の粉がおおっている。

(4)デイオニューソスはギリシア神話に登場する豊饒と葡萄酒と酩酊の神。この神は酒や踊りなどで人を酔わせて、人びとを抑圧から解き放って自然の状態に立ち戻らせる。これがデイオニューソスの秘儀である。
(5)デメテル、ギリシア神話に登場する女神で、クロノスとレアーの娘でゼウスの姉にあたる。オリュンボス十二神の一柱で、母なる大地を意味する。
(6)エレウシス、古代ギリシアのアテナイに近い都市。神話に登場するデメテルの祭儀の中心地として知られる。



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