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2019年10月29日

アルジェの夏(14)アルベール・カミユ 柏倉康夫訳

 ある土地と絆を感じ、ある人たちへの愛を感じ、心が一致する場所がどこかにあるのを知ること、ここにはすでに、ただ一度の人生に対する多くの確信がある。もちろんそれで十分というわけではない。それでもあるときは、皆がこうした魂の国に憧れる。「そう、そこだ、われわれが帰っていく先は」と。この結びつきこそ、プロチノス(5)が切望したものであり、この地上にそれを見出そうとするのに、何の不思議があるだろうか? 結合はここでは、太陽と海という言葉であらわされる。それは、苦痛と偉大さを生む肉体のある種の味わいとして心に感じられる。超人的な幸福などなく、日々が描く曲線のほかに、永遠などないことを、わたしは学んだ。こうした取るにたりない、だが本質的な幸福、この相対的な真実が、唯一わたしを感動させるのだ。その他のもの、「理想的なもの」を理解するのに十分な魂を、わたしは持ち合せていない。獣のようでなくてはならないわけではないが、天使たちの幸福に意味は認めないのだ。ただわたしは、この空がわたしより続くのを知っている。わたしが死んだあとも続いて行くものを除いて、何を永遠と呼べばいいのだろう? わたしはここで、それぞれの条件に置かれた被造物の自己満足をいっているのではない。それはまったく別のことだ。人間であるのは簡単ではない。まして一人の純粋な人間であるのはなおさらだ。純粋であるとは、あの魂の国をまた見出すことだ。そこでは世界の類似性に敏感になり、血の脈動が午後二時のあの太陽の激しい波動と重なり合う。祖国とはそれが失われるときに、認識されるのは周知のことだ。自分自身のことで悩まされすぎる人たちにとって、故国は彼らを否認するものだ。わたしは酷薄でも、誇張して見せようと思っているのでもない。この生でわたしを否定するのは、まずは、わたしを殺すものだ。生を昂揚させるものは、同時にそのすべてがその不条理を増大させる。アルジェの夏で、わたしが学んだたった一つのことは、苦悩より悲劇であり、それが入間の生だということだった。そしてそれはさらに偉大な生への道でもあり得る。なぜなら、それは誤魔化さないことに通じるからだ。

訳注
(5)プロチノスは、新プラトン主義の創始者といわれる古代ギリシアの哲学者。カミュは文学部の卒業論文でプロチノスをテーマに選んだ。



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