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2020年6月25日

中高年の健康戦略(13) 富士通川崎病院 院長 行山康

 からだに感ずるさまざまな感覚の異常とか、普通でない自分の健康感をそこなうような現象を自覚症状といいます。自覚症状の有無を健康のバロメーターとしているかたもおおいでしょう。
 自覚症状を体系的にのべると、知覚神経が感知する症状、見る、聞くなどをつかさどる感覚器が示す症状、皮下出血,吐血、下血など目に見える身体異常、その他にわかれます。
 知覚神経の示す自覚症状である痛みについては頭のてっぺんから足の先までさまざまに表現されています。頭痛、項部痛、頚部痛、眼痛、咽頭痛、歯痛、耳痛、胸痛,腹痛,関節痛,筋肉痛などのほかに、神経の名前をつけて三叉神経痛、肋間神経痛などもよく知られています。痛み以外にもしびれる、知覚が鈍い、麻痺がある、痒い、冷たい,暑いなどの知覚異常があり、また目,耳、鼻,皮膚などの感覚器の異常はそれぞれに多くの自覚症状を表現する言葉があります。
 自覚症状があると休養しようとか、薬局へいって適当な薬をみつくろうとかマッサージしてもらうとか、医療機関にゆくとか元の体の状態に戻そうとするでしょう。大昔からおこなってきたことで医療の原点ともいえます。
 毎日の生活の中で出現してくる自覚症状を心配しすぎると「病気を生きる」ことになってしまいます。そうかといっていつまでも続く症状があるとほうっておくのも心配だなということになります。たまたま新聞とかテレビでそのような症状にあてはまる病気が紹介されていたりすると、これは大変と医師を受診したりします。たとえばインフルエンザがはやっているときは少し熱があるとインフルエンザの心配をしてしまうといった具合です。

 自覚症状はひとりひとりにとってはまったく個人的なもので客観的基準をもちにくく、ひととくらべにくいという特徴があります。例えば貧血がひどい女性が来院して生理での出血が多いか少ないかと聞いても大体はわからないとこたえます。ひととくらべたことがないのでわからないというのは当然です。頭痛なども急に出現すると大事件が頭の中におこったかとおもいます。さまざま検査をして異常がないというといときにはそのはずがないなどと不満な表情のひともいます。実際は100人にひとりも重篤な障害はありませんが、そうかといって自覚症状は個人的なものですから不安を払拭できるものでもありません。
 中高年では生物学的には衰えてゆく時期にかかっているわけですからさまざまな「自覚症状」を感ずる事が多いと予想されます。足が痛む、腰が痛い、ふらつく、目の中に蝿が飛ぶ、耳が遠くなるなどなにかとからだの不調が出現しがちです。一方、社会的に責任ある立場から解放されてある程度、仕事の量も減ったひとは健康感を増す場合もあります。自分の体調を中心に一日24時間をくみたてることができるし、疲労回復に十分の時間をとれるのでむしろ自覚症状は減ったというかたもいます。

 「自覚症状」でもっとも問題となるのは「自覚症状」がなくて健康障害がすすむ場合を如何なる程度にみつもって毎日をおくったらよいかということです。「自覚症状」がないのに、ないもの、感じないことを自分の健康が冒されていると心配することは、実際はなかなかむずかしい。しかし突然に命の終わりをつきつけられるのもこまる。そこで健康診断ということになります。健康診断は自覚症状がない段階でさまざまなからだの異常をしめすことができます。糖尿病,高血圧症などの生活習慣に関連した疾患とか、一部の悪性腫瘍(胃,大腸など)は健康診断で明らかになることがしばしばあります。健康診断で健康障害がはっきりしても「自覚症状」がないと依然として健康行動には踏み切りにくいでしょう。
 健康な感覚で過ごしているのに健康でないとおもわねばならないという状況は心の矛盾であり、現代人の心理の裂け目を示しているともいえます。すなわち科学とか合理的精神が区切る世界と自分がまるごと把握して自分のものとしている世界が一致していません。どちらを信じるかという問題になります。「自覚症状」を自分の基点として信じて、自分をつらぬくのか、それとも神の声のように告げられる診断結果をまるごと受け入れて、医学に身を委ねるべきなのか。大多数のひとは自分のからだの感覚よりは医学とか科学を「信じる」ようにいつのまにか条件づけられています。そうかといって全面的に受け入れるには抵抗もあることでしょう。
 このことは中高年の健康に限ったことではありません。より合理的で正しい判断だけで日々の生活、行動が形成されているわけでなく、そうかといって好んで理屈にあわないことをもとめているわけでもない。前々回に記した「信じる」ということがよりよく生きるには大切な要素であることが御理解いただけるとおもいます。
 「自覚症状」は身体の示す健康に関するサインですが意外と奥深い世界が広がっていることを感じました。
(この項終わり、次回に続く)



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